§~聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日~§
「ん……ん…………」
くぐもった息が胸に当り、生暖かい吐息が背筋をぞくぞくと震わせる。
無意識なのか、擦り寄るように悠人の腰に押し付けてくる太腿。
背中に回された指がそれぞれ別の生き物のように、さわさわと肩を撫で上げてくる。
押し付けられた胸と自分の身体の間で行き場の無くなった手を軽く動かすだけで、
ファーレーンの身体はぴくんぴくんと痙攣した。どうやら自分でも、制御出来ないらしい。
(……って、俺もか)
既に硬くなっているそれが、ファーレーンの内股と接触している。
柔らかい恥毛が触れるたびに、それは反応し、更に大きくなっていた。
悠人はそっとファーレーンを横たえた。そろそろ限界だった。
「あ……ユート、さま……」
一瞬でも離れてしまった身体に、名残惜しそうな声を出して手を差し伸べてくる。
まるで何かを探すように不安そうなそれを優しく握りながら、悠人はファーレーンに圧し掛かった。
ベッドに大の字になるように身体を押し当てると、丁度濡れた秘所にものがあてがわれる。
「ンン……」
何か熱いものが敏感な部分に触れる感覚に、ファーレーンは反射的に顎を仰け反らせた。
その耳元で悠人はそっと囁く。熱い吐息が耳にかかり、敏感に反応した白い肩がびくびくと震えていた。
「ファー……一つに、なろう」
「はい……はい…………ふああっ!」
うわ言のように応えるファーレーンに、悠人は無言でぐい、と腰を押し付けていった。
「…………っっ!!」
くぐもったような悲鳴が、ファーレーンの口から零れた。
自分の中で、何かが弾けるような異様な感覚。熱く貫かれる衝撃。遅れて襲い掛かる激痛、圧迫感。
あらゆる未知の感覚がないまぜになってファーレーンを翻弄していた。
「かはっ……はぁ、あぁあぁぁっ……っ」
それでもファーレーンは、ぐっと唇を噛み締め、その侵入に耐えた。
やがて、こつんと身体の一番深い処をつつかれるようにして、悠人の動きが止まる。
「はぁっ、はぁ……入った……」
荒々しく息を吐きながら、悠人はファーレーンを見下ろした。
やや太めの眉をぎゅっと顰め、ぶるぶると全身を震わせているファーレーン。
玉のような汗が身体のあちこちに浮き出し、強く握り締めているシーツが非常な苦痛を表している。
そして太腿の付け根、たった今結ばれた所から痛々しく流れ出る鮮血。
滴り落ちた朱が、シーツに一つ二つと染みを作っていった。
「……大丈夫か、ファー」
大丈夫な、訳が無い。そんな事は百も承知で、それでも悠人は訊かずにはいられなかった。
懸命に受け入れ、堪えている華奢な身体。その瞳が悠人の声に反応してゆっくりと開く。
「へ、平気です……だって、ユートさまが……ん……こんなに、近くに感じられる…………」
息も絶え絶えに、途切れ途切れ伝えてくる。
「…………嬉しい、です。こんな……わたし……嬉しい、です……っっ」
閉じたままの瞳に涙を浮かべて。
予想以上に狭いファーレーンの膣は、じっとしているだけでも悠人を締め上げていた。
くぐもった喘ぎだけではなく、心臓の動悸までもが響きになって、その都度きゅっきゅっと収縮する。
それに反応したファーレーンが身じろぎをすればするほどうねり出す壁。
悠人はともすれば押し流され、めちゃくちゃに動きたい衝動を必死になって抑えつけていた。
「ふっ……ふう……」
「あっあ……」
浅い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと桜色に染まった頬に手を添える。
それだけで、感極まったファーレーンがぴくんっ、とその身を撓らせた。
「はぁっ! 痛っ……あ、あぅんっ! あっ、あっ……」
「う、わわっ! ちょ、ファー! 待っ……!」
とたん、意志を持ったようにそれぞれの角度から膣壁が蠢動し、
擦り付け、絞り出すような動きがお互いに快感を与える。漏れそうになり、悠人は焦った。
「ふぁ、ユ、ユートさまぁ、ユートさまぁっ!」
しかし元々感じやすいのか、感激が痛みを凌駕したのか。自ら腰を押し付けるように、ファーレーンは止まらない。
遂にがばっと上半身を起こし、わなわなと震えながら悠人にしがみついた。
その途端、自重に任せたファーレーンと悠人の結合部が、より一層深く繋がる。
「ひっ……なに?……はぁーっ! あうっ、うぁぁっ!」
ぐしゅう、と圧縮されるような衝撃と共に、頭の中を火花のような奔流が駆け巡る。
もうこれ以上は来ない、と思われた部分にまで、抉じ開けるように侵入して来る悠人。
胸の奥で弾けた何かが腹部で熱く燃えるのを、ファーレーンは感じた。
「あ、あ、あ……んっ……ふぅっ……」
じーん、と下腹部に、痺れるような感覚。ファーレーンは、濡れ始めていた。
「ん……は、はぁっ……ル……ルゥ……」
熱く湿った吐息が、耳元で囁かれる。
胸板に押し付けられる柔らかい乳房の先端で、硬くなった乳首がころころと悠人の肌を撫ぜ上げる。
一度も自分から動かしていない状態で、悠人は既に追い詰められていた。理性が丸ごと削り取られるようだった。
「ヤ、ヤバっ……くっ!」
子宮の入り口に潜り始めている先端と、それを誘うかのようにうねる膣壁の動きが熱い泥を掻き混ぜる。
時々噛み付かれる肩口の刺激すら、快感に置き換わって頭を焦がした。
そして何を思ったか、ぺろっとファーレーンがその傷口を赤く小さな舌で舐めてしまった時。
悠人はやにわに白い臀部を鷲掴み、身体ごと抱え込んだ。指に食い込む柔らかい感触。
伝わってくる、愛液の滑りと熱さ。気づいたときには激しく腰を突き上げていた。
「はぁぁぁぁっっ! あうっ! あっ! あっ!」
嬌声を上げ、髪を振り乱すファーレーンに構わず、そのまま仰向けにつき伏せる。
どさっ、と倒れこんだベッドがぎしぎしと軋んだ音を立てたが、もう悠人には聞こえなかった。
強く突き上げながら、目の前で揺れる双丘に、吸い込まれるように顔を押し付ける。
自在に沈み込む柔肌に汗の匂いと味を味わいつつ、首だけを動かしてやわやわと捏ね回す。
先端のすっかり硬くなったしこりを捕まえてそのまま甘噛みすると、呻きながら細い顎が仰け反った。
振り子のように揺らされているだけだった両脚が、爪先までぴん、と張り詰める。
途端、うねるようにきゅっと激しく収縮を繰り返す膣壁。軽い絶頂の波が増幅されてダイレクトに伝わってくる。
打ち付けた勢いをそのままに、悠人は滅茶苦茶に動き続けた。
磔にされた様な、ぐしゅぐちゅと既に開かれた秘部の上で、小さく隠れていた蕾が徐々に剥き出しになっていく。
「はんっ! はっ! はぅんっ! あっ、あっ……あぅぅっ?! んっ、んっ、ふぁぁぁっ!」
敏感な部分が律動で揺らされるたびに、ファーレーンの快感は限界まで押し上げられていった。
やがて一層膨れ上がった悠人のそれがごりっと子宮を削り、ファーレーンの意識が火花を散らして無理矢理飛ばされる。
「きゃぅっ! うぁ、うああぁぁぁぁっっっ!!!」
「くっ……ファー!!」
同時に、今までで一番大きくうねったファーレーンに耐え切れず、悠人は勢い良く放出していた。
「ひぅっっっ!! あぅ、あ、あ、あ、……はあぁぁぁぁっ!!」
浴びせられる熱い感覚に、ファーレーンが大きく仰け反る。白い顎が完全に上を向き、身体が激しく震え出した。
「あっ、あっ……」
びゅっ、びゅっと注ぎ込まれる度に、受け入れた子宮が歓喜の悲鳴を零す。びくん、びくんと痙攣する肌。
頭の中に明滅する火花。ぶるぶると震えだす太腿。白く甘美な波が意識を白く塗りつぶしていく。
「あ…………ああ…………」
そうしてようやく悠人が身を離した時には、ファーレーンはもう動けなかった。
朦朧としたまま、ぐったりと四肢を投げ出して焦点の合わない瞳を悠人へと向けていた。
お互いから噴き出した汗と体液でベトベトになりながら、それでも二人はずっとベッドで抱き合っていた。
離したくない、と語っているような手足が無意識に絡み合う。
荒い吐息も、蒸れた匂いも、気だるい身体でさえ、今は失いたくない大切な瞬間だった。
慈しみ、求め合う。身体の繋がりだけでは物足りない。心同士が結びつく共感こそ、渇望していたものだった。
例えばふと、悠人が頭を動かす。それだけで、
「……雨、止んだみたい、ですね」
ファーレーンが小さく囁く。些細な仕草だけで、二人は互いを理解出来るような気がしていた。
二人が店を出たのは、もうすっかり日付が変わってしまった頃だった。
雨の上がった夜空には、どこかへ流れていってしまった雲の代わりに無数の星が瞬いている。
悠人はまだ歩き辛そうにしているファーレーンを気遣いながら、ゆっくりと城の方角へと向かった。
ひょこひょこと内股でついてくる姿をみていると、なんだか悪い事をしたような気がしてくる。
「ごめんな、ちょっと乱暴だった。最後の方はなんだか訳が判らなくなっちまって……」
照れ臭い事もあって、がしがしと頭を掻きながら弁解する悠人。
しかしファーレーンは静かに首を振り、静かに空を見上げた。つられて悠人も上を向く。
月が、鮮やかな輪郭を浮かび上げていた。やや蒼みがかった清冽な美しさを醸し出している。
じっと眺めながら、ファーレーンは詩いだした。
――サクキーナム カイラ ラ コンレス ハエシュ
ハテンサ スクテ ラ スレハウ ネクロランス――
悠人は黙って耳を澄ましながら、そっとその手を取った。
強く握り返してくるファーレーン。寄り添う影が、月に照らされていた。