朔望

volspiel Ⅶ

 §~聖ヨト暦332年ルカモの月緑ふたつの日~§

「……それで宜しいのですね、ファーレーン」
「……はい。自分で決めたことですから」

帝国との戦いの火ぶたは切られたばかり。法皇の壁を攻略する部隊が、次々とケムセラウトへと向かっている。

「…………わかりました。イノヤソキマの調査を命じます」

そんな中、情報部へと飛び込んできた報告。
あの『剣聖』と謳われたミュラー・セフィスがダスカトロン大砂漠の端、イノヤソキマで見かけられたという。
探索し、招聘出来れば、彼女の存在は今後ラキオスにとって、大きな追い風になるだろう。
ただ、戦力を大きく割く訳にはいかない。命令は、一般兵士に授けるつもりだった。

「……感謝します、レスティーナさま」
跪いたまま、それだけを告げてくるファーレーン。感謝されるまでもなく、申請は許可するしかない。
彼女が名乗り出てくるのは、しかし、ある意味意外でもなんでもなかったのだから。

「……成果を期待しています」
だから、それだけしか言えなかった。立ち去る背中が辛く、寂しそうに見えて。