朔望

volspiel Ⅷ

 §~聖ヨト暦332年ルカモの月黒ひとつの日~§

何となく外の空気を吸いたくて出てきた王宮の庭。そこでユート君を見つけた。
辺りをきょろきょろと落ち着かない様子で歩いている。誰かを探しているのだろう。
それが誰なのかは簡単にわかったけど、ちょっとイジワルがしたくなった。
「ユート。このような時間にどうしたのですか? 」
「…………陛下。外の空気を吸いに出てきただけです」
振り向いた時、一瞬落胆した表情に、少しむっと来た。相変わらず鈍感な所は直っていない。
……でも言い訳が自分と同じだったので、特別に許すことにする。澄まして、
「そうですか。……ユート、少し時間を下さい」
庭の中へと誘った。

「良い夜ですね。月の光が私達に力をくれる。そのように感じます」
空を見上げながら、溜息を隠す。もう、私達は砕けた口調では会話が出来ない。
そう決めたのは自分自身。別々の道で、それぞれの生き方。それでも、寂しさは募っていく。
「……ユート、戦いには慣れましたか?……剣を持つ、その意味を理解しましたか?」
「戦う理由はあるよ……でも、殺す理由にはなっていない気がする」
いきなりの質問にも、ちゃんと即答してくれる。回転の速さから、いつもそれで悩んでいるのだと判る。

「特に最近は、そう思うよ」
“最近は”を強調するその言葉に、変に勘ぐってしまうのは考えすぎなのだろうか。
「私には戦う理由があります。……人は、血を流さなくてはなりません。罪を償う為には同等の痛みが必要なのです」
真似をするように、“人”を強調した。でもきっと気づいてはくれないだろう。
最初からスピリットを人と同じに見てきた、ユートくんは。……そんな所も好きだった。
「正しい、正しくないではありません。時は、繋がっています。私が女王としてここに居る事も」
そうして私は悪戯っぽく、くすりと笑う。ちょっとだけ皮肉を込めて。
「ユートがカオリを救う為に戦っている事も…………今、ファーレーンを探している事も」
「…………へ?」
「くす……心配なのでしょう? 彼女が。ファーレーンは今、別の任務についています。ここには居ません」
「い、いや俺は別に……」
「隠さなくてもよいのです。いずれ人とスピリットが結ばれる……そんな未来を、私は望んでいるのですから」
面白い位に動揺するユートくんに、私はやっと自分の考えが間違ってなかった、そう心から思えた。