朔望

volspiel Ⅸ

 §~聖ヨト暦332年エハの月緑いつつの日~§

「私たちは未来のため、この大地のために戦っています。
 多少の犠牲でそれが実現できるなら、それを厭いはしません。其方に処分を下します。
 罪無き者を巻き込んで復讐を実行した事、目を瞑ることは出来ません……死をもって償うべし」

言いながら、心は今にも泣き出しそうになっていた。
多少の犠牲? 何を言っているのだろう、私は。
既に償い切れない程の罪を犯し、なおここに立っている者が。
自ら刃の下に、一度も身を晒した事のない者が。硝煙の匂いも閃光の煌きも知らない者が。
こうして臆面もなく、そんなことを語っている。
罪無き者を巻き込んでいるのは、正に自分ではないか。
「陛下、それはあまりに……」
「黙りなさい! エトランジェ如きが口を挟む問題ではありません!」
「…………!!」
諦めたような溜息をついて下を向くユートくんの表情が辛かった。

「…………連れて行きなさい」
潰れそうな心が放った声は、意外にも殊更冷たいものになっていた。