朔望

回旋 coda

 §~聖ヨト暦332年アソクの月緑ふたつの日~§

何も映さない視界も、もう気にはならなかった。
『月光』の力を借りなくても、別の光を感じる事が出来たから。
森の中を、懸命に駆け抜ける。近づく程に大きくなる、黒い意識。
邪悪で純粋な神剣の気配がすぐそこまで迫っている。でもそれも、足を止める材料にはならなかった。
その側に、感じる事が出来たから。身体全体で知った優しい光がまだ輝いていたから。
感じる度に、不思議な力が湧いてくる。ウイングハイロゥに全て注げば、加速する体。
月の加護も夜の加護も、もう必要なかった。守りたい大切な物。ただその為にだけ。
「……ユートさまぁっ!」
倒れている姿が“感じられる”。すれ違いざま抱えた。
少し離れていただけなのに、懐かしい気持ちが込み上げてくる。――――見つけた。

 ――――“わたし”自身の、わたしだけの、……そして、“二人だけ”の、戦い以外の生きる意味。


立ち去り際、一瞬だけ目が合ったカオリさまが、そっと頷いていたような気がした。