朔望

風韻 overture

 §~聖ヨト暦332年シーレの月黒いつつの日~§

「お早う、……お兄、ちゃん」

いつもの、照れたような妹の声に目が醒める。
涼しい風が、鳥の澄んだ囀りを運んでくる。瞼を開けば、朝の眩しい景色。
覗き込んで逆光に映る眼差しが、明るく微笑んでいる。
無意識にさらさらの髪を触れば、少しくすぐったそうに目を細め、はにかむ。

穏かな休日。永久(とわ)に続けたい、と祈る、そんな平和な日常。
リビングに入ると、朝食の仕度をしていた彼女が振り返り、穏かに囁く。
「もう少し、だから……」
淡く白く広がる光景。幸せな幻想。自然に零れる笑顔。満たされた――『求め』。


運命と言う名の空虚(うつろ)な世界。委ねず、誓い、紡ぎ合った『たった一つの戦う意味』――――

  ――――― 風韻 ―――――