朔望

mazurka Ⅱ

 §~聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日~§

無数に発生し、飛来する熱線。音速を超えて殺到するそれらは、肉体運動のみで避ける事など不可能。
ントゥシトラは、今まで常にその先制攻撃のみで敵を消滅させてきていた。守りの概念など元々無い。
ただ、“喰い尽す”。そうして自分の星さえ併呑していたントゥシトラは、一つしかない眼で目前の少女を映した。
槍は、全て叩き落された。幻かと疑うほど、無傷なまま迫るその紅い瞳。長く流れる同色の髪。
手にした銀色から放たれる威圧感に、ようやく思い出した。乏しい記憶量がその断片を拾い上げる。
 ――――時詠みのトキミ。常に行く手を阻むもの。天敵の姿に、確かに見覚えがあった。
疑問が頭をよぎる。自分“達”は何故、同位であるはずの神剣にこうも翻弄されているのか。
相手も第三位の持ち主の筈ではないか。複数の意識をもってしても、結論は遂に出なかった。
95 名前: 朔望 mazurka Ⅱ [sage] 投稿日: 2005/11/13(日) 19:54:00 ID:qEkFPymz0

「……遅い」
滑るように至近距離まであえて踏み込んだ時深は、そのまま『時詠』を頭上に翳した。
舞いを踊るようにくるりと手を捻り、そしてさっと身を屈める。“人形達”が刃となってントゥシトラに襲い掛かった。
「ギッ!!」
王冠、体毛、そして本体。それぞれが自分の役目を理解しているようにずだずだに引き裂く。
悲鳴と同時に降り注ぐ、燃え滾る血飛沫。浴びれば身を焦がすそれを巧みに避わし、一度離れる。慎重を期すべきだった。
この後、あのテムオリンが、そしてタキオスとの戦いも控えている。マナの消耗は危険。練磨の感覚がそう告げていた。
「悠人さん……それにみんなは……?」
怯み、動きの止まったントゥシトラへの警戒を割き、気配を探る。どうやらあちこちに点在しているようだった。
そしてそこに感じるエターナルの気配。点灯するその気配が、その時殆ど同時に大きく膨れ上がった。
「いけないっ!!」
幾らなんでも無謀すぎる。自分が行くまで、出来るなら逃げていて欲しかった。エターナルの力は絶対。
あれほどそう警告した筈なのに、悠人やスピリット達は全員それに正面から立ち向かおうとしている。
ロウエターナルは、遊んでいるのだ。この世界を消滅させる、その余興程度にしか考えていない。しかしもう間に合わない。
「もうっ! こんな未来があるなんて…………っ」
複数に点在する彼らを救う手段を、時深は咄嗟にはじき出した。しかし、それは予測もしなかった事態。
当惑しながらも、精神を集中させる。呼び寄せる、一個の存在。何も無い虚空に差し出した手に収束する光。
「……こうなったらもう、知りませんからねっ!!」
時深はやけくそ気味にそう叫んだ。徐々に形造られる、一振りの神剣――――『時逆』を手にし、何故か心持ち微笑みながら。