朔望

unison Ⅰ

 §~聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日~§

ザシュゥゥゥゥ――――――

同時に襲い掛かる炎と氷。その潜在能力を最大限にまで振り絞られた二本の神剣が、
重なり合うようにミトセマールに吸い込まれる。この世界での仮初めの身体が、耐え切れずに悲鳴を上げた。
「なっ……! そ……バカなっ! アタシが、このアタシがこんなオモチャごときで……ぐはっ!」
エターナルが戦うにしては、マナが充分とはいえない世界。『不浄』の力は半分も出し切ってはいない。
創り出した「依り代」はこの世界の物質を再構成させたもの。つまり当然、「この世界の摂理に従うもの」だった。
突然弱くなったオーラを突き破られた以上、その肉体は、斬り裂かれた傷口から確実に悲鳴を上げ始めている。
それでも、ミトセマールはたった今起きたこの現実を決して認めようとはしなかった。

「おもちゃで……悪かったわねっ!!」
「マナよ我に従え、彼の者を包み深き淵に沈めよっ!!」
「ガァ、ァアアアアァアッッッ! コ、小娘ェェェェ!!!」
灼熱と極寒が同時に収束する。分子結合上で繰り返される沸騰と凝固。赫と蒼の火花がぶつかり合う。
送り込まれたマナが触媒となり、運動エネルギーとなって崩壊へと向かう物理運動を活性化させていた。
保てず、ぼろぼろになっていく肉体。信じられないといった表情で目を剥き、消えていく自分自身を見る。
「こ、の……ッ! この、アタシがアアァァァぁぁぁぁ……!!」
最後の力を振り絞り、うねる『不浄』を振り上げた時。
「アアアァァァあぁぁぁぁぁ……………………」
ミトセマールは、この世界から灰も残さず完全に排除されていた。


ひゅう、と一陣の風が吹き上がる。
静かに立ち上がったセリアは乱れたポニーテールをふわっと掻き上げながら、
「一言いっておくけど…………青 く な ん か 無 い わ よ 」
誰も居ない雪原に向けて、きっぱりと言い放っていた。