朔望

風韻 coda

 §~聖ヨト暦332年ソネスの月青みっつの日~§

「それじゃ、行こうか」
「……はい」
踏みしめるとさくっと軽い音を立てる草の音。夜風が運ぶ鳥の囀り。一時の休息を謳歌する虫の音。
世界を満遍なく包み込む様々な音色に溶け込むように、歩き出す。右手に掴む、『求め』。左手に掴む、温もり。
まるで落ちてきそうな星空。中空に浮かぶ、上弦の月。淡く照らされた緑が生み出すマナの息吹に、ふと思い出す。

 ――――手は何で二つあるか、知ってる? 片方に剣を握るためでも、もう片方は手を繋ぐためにあるんだよ

りぃぃぃぃん…………

ファーレーンの『月光』が、『求め』に共振したのか、優しい響きを奏で出す。きゅっと握り返してくる小さな手。
悠人は、自然にファーレーンを見つめた。見上げてくるロシアンブルーが自分を映し出す。
月の光をしっかりと受け止めたファーレーンの瞳が、久し振りに本当に明るく微笑んでいた。


 サクキーナム カイラ ラ コンレス ハエシュ
   ハテンサ スクテ ラ スレハウ ネクロランス
     ラストハイマンラス イクニスツケマ ワ ヨテト ラ ウースィ…………ルゥ………………


 ――――照らすは既に儚き光 未だ求める寄り添う夜影 貴方は私を紡ぎ出して下さいますか――――