朔望

rhapsody

 §~西暦2008年12月20日~§

  ―――― 一人で全部背負い込んで、潰れてもしょうがないぜ?

「……右だ、悠人」
「あれ? なにしてんのよ」
隣を歩いていた筈なのに、いない。振り返ってみると、じっと顔を横に向けたまま、光陰はその場に突っ立っていた。
倉橋神社。通学路の途中にある妙に古い、落ち着いた感のあるその場所は、アタシのお気に入りでもある。
「なに、どうしたの? 何か……光陰?」
光陰は社に向かう石段を眺めながら、どこか遠い視線を送り続けている。
まるで意識が飛んでいってしまったような様子に、アタシは思わず不安になって光陰の肩を揺すった。
「あ、ああ、今日子か」
「ああ今日子か、じゃないわよ。どうしたのさ、ぼーっとしちゃって」
「いや、なぁ今日子……すまん、なんでもない」
「なんでもないって…………何だかヘンよ、もう。しっかりしなさい」
ちょっと怒った風に、嗜めてみる。すると予想通り、光陰は一度首を振り、にっと笑って見せてくれた。
「さ、そんな事より、さっきの話。もうすぐクリスマスなんだし、佳織ちゃんとも話したんだけど…………」
言いながら、ふと頭を掠める疑問。アタシ達は、“いつ佳織ちゃんと知り合ったのだろう”。
今度はアタシの足が、ぴたりと止まる番だった。ひゅう、と冷たい北風が通り過ぎていく。
舞い上がる制服のスカートの裾と前髪をそっと抑えながら、何気無しに神社の方を振り向いた。

  ―――― 嫌いになるんだったら……とっくのとう……なんだからさ

「あ、あれ?」
ぽた、と落ちる水滴。頬に手を添えてみると、涙が流れていた。胸が、ぎゅっと絞られる。
「…………下がって……ゆ、う?」
「……今日子?」
「え…………な、なんでもないなんでもない……アハ、なんだっていうんだろうね?」
少し先を歩いていた光陰が振り返る。慌てて両手を振って誤魔化しながら、アタシは光陰の元へと軽く駆けて行った。