朔望

mondschein

 §~ Someday, Somewhere ~§

一点の曇りも無く澄み渡る夜空。
明滅する星々が殊更明るい月の庇護の元、ささやかに寄り添い合って浮かぶ。
あるものは群れを成し、またあるものは孤高に煌き。そしてあるものは流れ、消えていく。

月が好きだった。
加護を受けているから。そんな当たり前の理由ではなくて。
全てが寝静まった世界をただ見守り、悠久に浮かび上がるその姿が。
日ごとに形を変え、その度に移りゆく表情が。
ひっそりと静寂を包み込む、慈愛に満ちた優しさが。――――闇を紡ぎ、映し出す強さが。


 ――――――でも。

月は、孤独だった。
孤高の煌きは、弱さ故の儚い強さ。移ろう表情に怯える影は、常に紡ぎ出された寂しさを孕む。
群れを成す事も流れ消える事も選べず、ただ受け入れて曙光の影に溶けていく。

月は、欲しかった。
同じ輝きを持ちながら、自ら光を放つ力強い伴星が。寄り添い、育む優しさが。
悠久の風韻の中、帰らざる日々を共に奏鳴してくれる、そんな「一緒」が欲しかった。


 ――――――見つけた。

静寂の森に一際目立つ大木の元。寄り添い、微笑みながら眠る二人がいた。強く繋ぎ合わされた手。
鳥の囀りも木漏れ陽も、穏かな旋律となって二人を包む。世界は、どこまでも優しかった。

一匹のエヒグゥが跳ねてくる。鼻をくんくんと鳴らし、小刻みに首を傾げ。
やがて金色へと光り始めた景色の中、白い妖精は再びどこかへと消えていった。