寸劇をもう一度

エンゲキ ~幕前~

「で、俺は何の役なんだ? というか、そもそも何を演(や)るんだ?」
居間に連れて来られた悠人はヒミカに尋ねた。
「演目は…そうですね……『初めてのエンゲキ、第二詰所にて』とでもしておきましょうか」
「何だそりゃ?」
「ここでわたしたちがやった初めての『エンゲキ』の様子を『エンゲキ』としてやるんですよ」
「……そりゃあまた、何と言うか…メタだなぁ」
「『メタ』? 何ですか、それは?」
「あぁ、すまん、忘れてくれ。説明できる自信がない」
「まぁ、いいでしょう」
そう、今はハイペリア語講座をやってる場合ではない。
「それで? 俺はまた俺役なのか?」
「いいえ。アセリア役を演じるヘリオン役でお願いします」
「ややこしいな」
「オルファリル役のネリー役はニムントールが、エスペリア役のセリア役はナナルゥが、ユートさま役のユートさま役はわたしが、それぞれやらせて頂きます」
思わず頭を抱えてしまう悠人であった。
「…って、えーと…ツッコミどころ満載な気がするけどとりあえず……ナナルゥがエスペリア役というかセリア役というか、なのか?」
「えぇ」
「問題ありません」
ヒミカとナナルゥがこくりと肯いた。
「そ、そうか……」
まぁ、首謀者であろうヒミカがそう言うのだから大丈夫なのだろうが、意外な配役ではある。
「残りの者は観客役兼観客、わたし役とハリオン役はなしで行きます」
「観客役兼観客って…あぁ、いや、いい」
気にしたら負けのような気がして来た。
「ただの再現にするつもりはありませんから、ユートさまは適宜、臨機応変かつ柔軟に対処して下さい」
「それって…演劇なのか?」
「ハイペリアでどうかは知りませんが、今回はこれで行きます」
「まぁ、いいか」
とりあえず、悠人としてはアドリブのようなものだと思うことにした。