寸劇をもう一度

エンゲキ ~幕後~

ひとしきり泣いたり笑ったりして。
「で、実際問題、俺は何をすればいいんだ?」
結局そこに立ち返った。ただし、後ろ向きな意味ではなく、今度は前向きな意味で。
「ですから、ユートさまはユートさまでいてくれればそれでいいんですよ」
ヒミカの言うことは変わらない。
「そうですよぅ~。ユートさまは何て言うか、わたしたちの精神的な支柱なんですからぁ~」
持ち上げるようなヘリオンの言い草が面映い。
「存在自体がわたしたちの生きる理由であり戦う理由、ということですね」
ナナルゥが落ち着いた口調でさらっと大胆なことを言う。
「わたしたちにしてみればユートさまは存在自体が奇跡のようなものですからね。そろそろ自覚して頂きたいところですけど」
「あー、ユートにわかるわけないって、お姉ちゃん。ユートって鈍いから」
諭すようなファーレーンに、しゃらっと茶々を入れるニムントール。
「レスティーナ女王陛下も奇跡のような方だけど、少し方向というか形が違うものね」
「そうですね~、ユートさまは~、何と言うか~、近いんですよね~」
セリアの冷静な寸評に、ハリオンがよくわからないことを言う。
「えーと、なんだっけなぁー、んーと……あ、そうそう。ユートさまはねぇー、ダイコクバシラなんだよー♪」
「ダイコクバシラ~♪」
ネリー、シアー……ハイペリアかぶれもほどほどにな。
「ふむ……まぁ、せっかくですから一歩進んでみましょうか」
ヒミカはネリーとシアーの言葉を聞いて少し何か考えてから口を開いた。
「何だ? 俺にできることなら何でもするぞ?」
「ハイペリア語では家族のことをカゾクと言うそうですね?」
「あぁ」
「わたしたちには定義的にというか種族的にというか、家族というものがありません。そこで、血とか籍とかに縛られない家族のようなものを意味する聖ヨト語をハイペリア語に準えて『カゾク』と定義して、わたしたちでこの世界初の『カゾク』を始めてみませんか?」
あっけに取られた。悠人ばかりでなくヒミカ以外のみんなも驚いている。やがて時間が動き出す。
「ヒミカって……いえ、らしいと言えばらしいのかもしれないけど」
「えぇ、とっっってもぉ~、ヒミカさんらしいですねぇ~」
恐い物を見るような目でヒミカを見るセリアといつにも増してにこにこ笑顔のハリオンが対照的だ。
「積極的というか攻撃的というか行動的というか、す、すごいです~」
ヘリオンが瞳をきらきらと輝かせて尊敬の眼差しをヒミカに向ける。
「興味深いですね」
ナナルゥは淡々と。
「……なるほど。戦いの、その先、ということですか」
独りごちたファーレーンは「ん?」と顔を向けて来たニムントールに「何でもないの」と微笑を返す。
「カゾクー♪」
「カゾク~♪」
ネリーとシアーは悠人にじゃれついて大はしゃぎだ。
「うん、みんながそれで…いや、それがいいなら、俺も大賛成だし大歓迎だよ」
まぁ、既に家族みたいなものだしな。
「じゃ、しるし…と言うにはささやかだけど、ニムはともかく、他のみんなも『さま』はなしで『ユート』って呼んでくれ」
「なんかムカつく……けどいいや」
「「ユート♪ ユート♪ ユート♪」」
「ネリー、シアー、いいけど、連呼は変だぞ」
「ユート…さま。はぅうぅうぅ~、やっぱり落ち着かないですよぅ~」
「まぁ、徐々にでいいさ、ヘリオン。まずは『さん』ぐらいからでもいいし」
それから呼び捨ての儀式を一巡して。
「それにしても、ヒミカ変わったよなぁ」
悠人はしみじみとヒミカを眺めながら感嘆の言葉を口にした。
「そうですか? わたしはわたしのままですが」
ヒミカがきょとんとする。
「最初に会った頃は戦士って感じだったけど、今は何と言うか、戦略家とか革命家とかそんな感じがする」
悠人の言葉にヒミカは溜め息をついて。
「わたしに言わせてもらえればユートの方がよっぽど革命的なんですけどね。わたしは昔も今も戦っているだけで。あぁ、でも、戦いの質は変わりましたね。昔は生き延びるための守りの戦い。今は未来を拓くための攻めの戦い。体を動かすだけでは済まなくなった分もどかしいことも多いですが、戦い甲斐は遥かに大きいですね」
「はは、そっか、そういう見方もあるわけか。うん、なるほど、戦士だな」
「わたしでさえ剣や魔法での戦闘ではない戦い方もあると悟ったんですから、変化を引き起こした張本人のユートも悟って下さい」
「うぐっ」
「ふふ…」
「あはは…」
うん、俺も戦おう。カゾクとともに。