寸劇をもう一度

触媒

 悠人たちがカゾクになり、悠人が本格的に第二詰所へ居を移してから数日後、悠人たちはヨーティアによってリュケイレムの森の外れへと呼び出された。
「で、こんな人里離れたところまで呼び出して何の用なんだ?」
当然の疑問を呈した悠人にヨーティアが滔々と説明を始める。
「今度の戦いの最大の問題は彼我の戦力差だ。時深殿の話ではエターナルと言えどこの世界の制限によって絶望的と言うほどではないようだが、それでも並みのスピリットでは相手にならない可能性が高い。潜在的な能力によって選抜された言わば精鋭とも言える第一詰所の連中と違って、ここに集まってもらったみんなにはさらに厳しいことになると思われるわけだ」
「ヨーティア……俺、怒るぞ?」
「まぁ、聞け。だけど、だ。おまえさんがたには他の連中にはないものがある。聞いたよ、『カゾク』だって? その特性を活かすことを試みようじゃないかというわけさ」
何でヨーティアが知って……って、どうせネリー辺りだろうな。ヨーティアは年少組をやたらかわいがってるし、年少組もけっこうヨーティアに懐いてるし。
「一般に永遠神剣同士の間に共振とでも言うべき現象が起こり得ることは知られている。アセリアが『存在』を通じて悠人の『求め』を覚醒させたというのもこれの一種だな。で、まぁ、ボンクラのために間の理屈を端折って結論を言ってしまうと、神剣を共振させることによって単純な合力よりも大きな力を引き出し得るということになる。神剣の数は多ければ多いほど良い」
「だったら……」
「あぁ、もちろんアセリアたち、もっと言ってしまえば大陸中のスピリットたちの神剣をも共振させられればさらに大きな力を引き出せるかもしれない。だが、話はそう簡単じゃあない」
「どういうことだ?」
「そもそも神剣を共振させること自体が容易くはないんだよ。神剣の力を引き出しつつ呑まれずに制御できなきゃならない。この時点でラキオスとマロリガンのスピリットたちぐらいしか現状では厳しいだろうね。さらに、共振させる神剣の本数が多くなればなるほど難しくなるんだよ。これはまぁ、何となくわかるだろ? 要するに、多人数が心をひとつにするのは難しいってことだ。そこで、だ。おまえさんたち『カゾク』に期待しようというわけなんだ」
「理屈はわかるような気もしないでもないような気もするけど、『カゾク』ったって何もそこまで特別なことじゃ……」
「かーっ、おまえさんわかってないねぇ。ま、だからこそってのもあるんだろうけどさ。ごらんよ」
言われて悠人が見回すと皆の瞳が輝いていた。
 それから数日の試行錯誤を経てかろうじて共振させることには成功したものの、充分な力を引き出せる領域には達していなかった。ヨーティアによれば数日でここまで達しただけでも大したものらしいが、悠人は何もできない自分が恨めしい。共振の訓練の様子を見ていたヨーティアが突然、
「ユート、ちょっとそこに座ってごらん」
と言い出した。指差しているのは共振のために円陣を組んでる皆の真ん中。
「え? どうしてだ?」
「いーから、いーから。この大天才様のひらめきが正しければそれで問題が解決するはずなんだよ」
大天才様のひらめきの信頼性はともかく、役に立てるなら悠人としても望むところではあるので言われた通りにする。
「で? それからどうするんだ?」
「おまえさんはそのままでいい。じゃ、みんな、もう一度やってごらん」
皆がまた神剣を同調させて行く。
「よーし、よーし、かなりいい感じになったね。じゃ、ゆっくり戻して……はい、おつかれ、今日はここまでにしよう」
神剣を下ろして息をついた皆の様子を見て特段問題なさそうなのを確認して、悠人はヨーティアに尋ねる。
「えーと、よくわからないけど上手くいったのか?」
「あぁ、ばっちりさ。ユートが基準のような役割を果たして同調率が上がったんだ。おもしろいね」
「と言われてもなぁ……俺は何もしてないぞ?」
「まぁ、心の問題だからね。おまえさんは触媒みたいなもんだとでも思っておけばいいさ」
たしかに悠人自身は直接共振に参加していないのに結果は変化したらしいわけで、触媒とは言い得て妙だ。