寸劇をもう一度

そして……

 レスティーナ統一女王のもと、この世界が再出発してから五年の月日が流れた。悠人たちは予備役という扱いで相変わらず第二詰所に住んでいる。予備役扱いな分、給金も少ないのだが、悠人が政策委員会に特別委員として参加したりして、どうにか暮らして行ける程度に収入を得ることはできた。ヒミカが書き始めた子供向けの本も芽が出始めたみたいなので、世界情勢さえ安定すれば、正式に退役しても暮らして行けるようになるかもしれない。
 今、悠人たちは馬車に揺られてマロリガン地方へと向かっていた。大型の幌馬車だ。幌には赤・緑・青・黒の四色を使ってこう書かれている。『劇団 第二詰所』と。そう、予備役になってまで作った時間でエンゲキをしているのだ。娯楽と言ってしまうと何だけど、エーテル技術を放棄して苦しい世の中を少しでも明るくできればと思って悠人も賛成した。
 もちろん劇場なんてないから、街の広場で、宿屋の食堂で、とにかく使える場所を使ってやる。幸いなことに結構な人気が出て、今回、初めてラキオス地方の外へ遠征を行うことになった。普通なら隣接しているイースペリア地方やサルドバルト地方あるいはバーンライト地方辺りからというのが妥当なところだろうが、光陰と今日子が復興を手伝うために働いていて会場の確保や事前宣伝に手を貸してもらえるためマロリガン地方が最善の選択肢だったのだ。
 馬車の中はいつもの詰所とあまり変わらない光景が広がっている。ニムントールは毛布に包まって寝こけてるし、そんなニムントールの髪を側に座って優しく梳くファーレーン。紙を前にこめかみを叩いて呻吟するヒミカと、やはり紙に向かって何やら絵を描いているらしいシアー。そんな二人をそれぞれの表情でみつめるハリオンとナナルゥ。二人の紙を覗き込もうとしたヘリオンにネリーが飛び乗って共に崩れたり。ちなみにセリアは御者台で手綱を操っている。
「なぁ、ヒミカ。それは何を書いてるんだ? 本の原稿か? それともエンゲキの台本か?」
ふと投げかけた悠人の問いに、ヒミカは顔を上げて答える。
「いいえ、どちらでもないですよ。エンゲキにすることも出版することもない、世界でただ一冊、わたしたちだけのための本」
「ふうん……題名は?」
『第二詰所 ~カゾクの日々~』