胡蝶

Yearning Ⅳ-1

自分で言い出したことなのに、いざとなると、逃げる。
誰か何か、この荷物を預けられる「自分じゃないもの」がどこかに無いかと探す。
そういう風に逃げ出そうとする人を、まだ短い人生の中でも、それなりに沢山見てきた。
どうして、そんなに簡単に投げ出そうとするのか。どうして、そんなに簡単に頼れるのか。
疑問を持ち始めたのがいつの頃からなのかは、判らない。
だけど、いつからか、自分だけは絶対にそんな人間にはなりたくない、と強く願った。
事あるごと、努力してきた。それなのに。

「はぁ。貴女ねぇ、そんな肩肘張って身構えてると、高嶺くんだって警戒するでしょ? 第一変に思われるわよ」
「…………」
「あれ? ……おーい。帰ってこーい」
「…………え? あ、な、何?」
「いや、だからぁ、睨まないでよ怖いから。挙動不審な反応しない」
「はい? 睨んでなんかいないけど」
「み、け、ん。皺寄せっぱなし。いかにも緊張してますって顔、してるよ?」
「え? 嘘、気のせいじゃないの?」
「気のせいって……はいはい、気のせいね、気のせい」
なんだって隣に、わたしの悪友が呆れ顔で並んで立っているのだろう。

終業して間もない放課後の校庭に、人影は少ない。
部活もまだ本格的に始めている所は無く、グラウンドは閑散としている。
吹きッ晒しの北風が所々で舞い、巻き上がった木の葉が一瞬の緊張の後解放されて散らばっていく。
それが校門に立っている私達の足元までやってきて、寒さを余計に際ださせていた。
「……おお、寒い。これで風邪引いたら、貴女のせいだからね」
この娘は、本当に寒さには弱い。うちの姉も弱いが、こっちは筋金入りだ。
毛糸の手袋まで着けた完全装備の両腕を口元に当てながら、真っ白な息を吐く。
自分の体積がほぼ倍に膨れ上がるほどの外套を着こんでも、まだ我慢出来ないらしい。
ちなみにうちの妹はこの時期、妙に機嫌が良くなる。なんでも気分がハイになるとか。見た目、全然変化ないけど。