どこをどう走ったのか、覚えていない。
気がつくと、私達は学校の前にまで戻って来ていた。
両手を膝に当て、呼吸を整える。校門の影や冷たい空気に、先程までの非現実感はもう無くなっていた。
隣で高嶺くんが汗を拭いながら、深く息を吸い込んでいる。横顔を見ていると、少し安心出来た。
何を焦っていたのだろうと自分に可笑しくなり、同時に申し訳ない気分で一杯になる。
謝ろうと口を開きかけた所で急に振り向いた高嶺くんと目が合ってしまい、慌てて俯いてしまった。
「はぁはぁ……結構……走ったな……」
「う、うん……」
「……なにしてるのよ、あなた達」
「わっ!」
本当に、心臓が飛び出るかと思った。
顔を上げると丁度校門から出てきたらしい我が親友が、相変わらずの厚ぼったい格好のままで立っている。
眼鏡の奥の呆れるような視線が痛かった。
「こんな季節にマラソン? 面白い?」
「そんな訳ないでしょ!」
心底不思議そうな彼女の口調に、思わず本気で突っ込んでしまう。
そしてそれが拙かった。
走り回って疲れていたのとさっきまでの不安感が重なってしまってたとはいえ、口にしてからはっと気づく。
顔色を窺うと、案の定すっと一瞬細めた目が何かろくでもないことを企んでいると、これでもかという位流暢に物語っている。
くるりと高嶺くんの方に向きなおした彼女は、これ以上ないほど優雅な表情を浮かべ、
「ふーん……ね、高嶺くん。どうせまたこの娘が振り回してたんでしょ? 嫌ならハッキリそう言った方がいいよ?」
などととんでもない事を口走っていた。
「な……っ」
悔しい事に、否定出来ない。
そんな私の様子を完全に楽しんでいるのが判っていても。
隣で高嶺くんが、私と彼女を困ったように見比べている。何だか、身体が一回り小さくなったような気がした。
「あー……いや、ま、いいんじゃないか?」
「いいの? 本当に? こんなので?」
文字通りそんな身も縮む思いをよそに、彼女の言いたい放題な問い詰めは続く。
……こんなので悪かったわね。嫌というくらい自覚してるわよ。
「高嶺くんも物好きね……っていたたたた」
「いいかげんにして! もう……え?」
「うん? 何?」
「あ、あ……」
いい加減に止めようと、マフラーの裾を引っ張った所で、それはまた起こった。
薄っすらと、霧がかかったようにぼやけ出す視界。不思議そうに窺う友達の表情の、輪郭が上手く見えない。
そして背後から、ぞくっとするような視線。高嶺くんの肩越し、見えない空間のどこかに潜む気配。
それが、くすくすと忍び笑いのようなものを漏らしているのがはっきりと感じられる。
「ん? 委員長、どうかしたのかって……うわわわわっ! またかっ!」
「またかって……ちょっ? ……なによ、変な娘ね……」
もう、どんな風に見られたかなどと気にしている余裕は無かった。
説明することも上手く出来ず、わたしは無言で高嶺くんの手を取り、その場から駆け出していた。