胡蝶

Fusion

結局「蓋」は2周期もの間、私達をこの世界へと止める事になった。
その長い年月は、当然ガロ・リキュアの盛衰をも飲み込み、一つの文化にも幕が下りる。
人とスピリットの間に種族の隔たりというものが無くなり、融合されて最早久しい。
私と悠人は何時の頃からかひっそりと、人目につかない森の奥で生活するようになった。
リアとユミナのお墓があった丘も今は深く樹々が繁り、
かつてはソーン・リームと呼ばれた土地に発生した大森林地帯の一部となっている。
ラキオスの王城はその外壁だけが痕跡を残し、湖の底で静かに眠っていた。

開け放たれた窓から、鳥が自由に入ってくる。
机の上に広げられた本を物珍しそうに眺めて首を傾げ、すぐに興味を失うと、再び羽ばたいていく。
目を細めて見送り、それからそっと日記を閉じた。ヒミカがこれを渡してくれた意味を、考えてみる。

 ≪ こんな世界でもね。私にも何か残せたら、って考えるのは、素敵じゃない? ≫

あの日、ニーハスで最後に会った時。ヒミカは眩しい程の笑顔でそんな事を言っていた。
実際に、彼女の著書が、少なくとも一冊、私の手元にまだ残っている。

――――でもきっと、彼女が言いたかったのはそんな事じゃなくて。

「くっ……ふふ……ヒミカぁ…………」
両手で熱くなる目頭を庇うように、どさっとベッドに仰向けになる。
こうして今も脳裏に浮かぶ、ラセリオでの防衛戦。今にも聞こえて来そうな凛とした声。

 ――――みんな、来たわよっ!

頼もしい後姿。躊躇う気持ちを後押ししてくれる、そんな優しさが。

 ――――今時流行らないよ、ただ黙って見守るなんて。

ほら、こんなに。いつまで経っても消えない残り火が、止めどもなく涙を流させるじゃない。