いつか、二人の孤独を重ねて

エピローグ

「はー、今日もしんどかったなぁ」

冷たい石の壁と床の地下迷宮の一階層、出口近く、地上の光が見えたところで悠人がぼやく。

「今日は初めて最深部の一歩手前…九階に降りましたからね。まだまだこれからですよ、悠人さん」

背後から時深がにこやかな表情がパッと思い浮かぶほどに悠人に比べて元気に満ちた声で返す。

「ネリー、毎日毎日同じだんじょんに潜って、同じ光景と戦闘の繰り返しで飽きたよぉ~」

左隣りを同じ歩調で歩いていたネリーが、悠人に続いてそうぼやく。

「飽きたよぉ~…」

右隣のシアーが、いつもと変わらない調子だけれど本当に疲れきった声でネリーに続く。

「ユートさん、ネリー、シアー。これはエターナルとしての訓練なのですよ?甘えは許されません」

背後から、エスペリアがぴしゃりとたしなめてくる。

「…だいぶ、地図も埋まってきたな」

やはり背後から、そうポツリと呟くのは少しだけ、本当に少しだけ良い方向に変わってきた瞬の声。

現在の悠人たちは時深のすすめで、カオスエターナル訓練場「混沌の試練場」という世界にいた。
毎日毎日、地下迷宮に潜ってはそこに蠢く怪異と命のやり取りをしつつ少しずつ踏破していく日々。

ファンタズマゴリアとハイ・ペリアに別れを告げてから、ちょうど一周期になるのだろうか。
今も相変わらず腰に下げている【求め】のおかげで縮んでしまった身体にもすっかり慣れた。
背中の【聖賢】との仲も悪くは無い、むしろ最初の頃よりは上位永遠神剣に馴染んできたように感じる。
壁に寄りかかって、先に他の面子が出口の縄梯子を上っていくのを見ながらそんな事をぼんやり考える。

「…ユートくん」

不意に、一緒に寄りかかっていたシアーに呼ばれて振り返る。
シアーとも、今も色々あるけれども本当にお互いへと歩み寄ってこれているとも悠人は思う。
無言で見つめ合っていると、シアーが腕に何だか嬉しそうに抱きついてくる。

「大好き」

にっこりと満面の笑顔で真っ直ぐ言われると、やっぱり今でもどうにも顔が真っ赤になってしまう。
ん、とシアーが目を閉じて唇を突き出してくる。

天から柔らかく、けれども控えめにさしこむ清らかなひかりの中で、悠人はシアーと唇を重ねる。

いつか、二人の孤独を重ねて。

HAPPY END