相生

緒に就いたばかりの戦況は、一進一退を繰り返している。
街道の正面に開かれた法皇の壁の大手はその門扉が大きく開かれているが、そこでの戦闘は比較的少ない。
ただそれは、勿論敢えての比較であって、激しい抵抗の前に悠人達の方が手をこまねいていると言った方がより正確な表現となる。
サーギオスのスピリット達は、今までの対帝国散発的戦闘に於いて遭遇した相手とは明らかに異質であり、戦闘力の桁も大幅に跳ね上がっていた。
自らの意志を消した瞳の奥から殺意を漲らせ、我が身をも省みず、油断も隙も見逃さずに襲い掛かってくる。
しかもその速さが尋常ではない。以前に対峙した時にもそうだったが、神剣の力を最大に発揮した成果がこれかと悠人は舌打ちを繰り返す。
「くっ……エスペリア、まだいけるかっ!?」
「はっ、はい! 大丈夫です。ですが」
「ああ、皆の方が心配だ。アセリア!」
「……ん」
「頼む、森の様子を見てきてくれ! 中央のナナルゥ達が危険かも知れない!」
この方面は、これで悠人とエスペリアだけの、部隊とも呼べない編成となってしまう。しかし悠人は決断せざるを得ない。
人数が固まった妖精部隊の脅威というものを肌で実感してしまった以上、純粋に神剣の位が低いメンバーの方が危ない、そう直感しての指示。
悪い視界の中、牽制を兼ねて『求め』を振るい、オーラフォトンで数本の樹を薙ぎ倒す。だが、やはり手ごたえのようなものは返ってこない。
濡れた前髪から滴り落ちる雨粒が鬱陶しくなり、首を振って払い、再び敵の気配を追う。どうやら包囲されてしまっている。

「ま、光陰達がいるから大丈夫だとは思うけどな」
「くす……ユート様、それでしたら何故アセリアを?」
アセリアのウイングハイロゥが無事森の中へと飛び込むのを見送り、背中合わせに『献身』を構えたエスペリアが、可笑しそうに肩で笑う。
悠人もこの状況で我ながらと、髪をがしがしと掻いて応える。同じタイミングで、囲みの輪がじりっと狭まるのを感じながら。
「言うなよ。これでも結構、相手は選んでいるつもりなんだからさ」
「……ユート様。ユート様は、わたくしが御護りいたします。……必ず」
エスペリアの背中が、遠慮がちに優しくこつんと触れてくる。互い濡れそぼっているにも拘らず、一瞬だけは感じられる温もり。
そして次の瞬間には、敵が一斉に襲い掛かってくる。
悠人は『求め』に篭められたマナをもっとも薄いと思われる場所へと放つ。白い爆発が吹き荒れ、捻られた空間が次々と悲鳴をあげていく。