相生

Lemma Ⅵ

金色に舞い上がったかつての仲間達を見送りながら、ウルカは唇をぐっと噛み締める。
かつて砂漠の国で一夜を共にしたクォーリンに語った言葉。それがこれほど虚しく、そして滑稽に思い出されようとは。
「お前たち……済まない」
命を奪うしか、方法が無かった。せめて苦しまないようにと、一撃で。それでも、胸の内には深く刻まれる。決して消せない痕が。
強さとは、なにか。今逝った少女達が得たものは、果たして強さなのか。否。剣の声を、既にウルカは聞き識っている。

『それに……願いも、あるのです』
『願い?』
『部下を……同胞を、あそこから助け出したい』

「ッッッ!!」
がっとむき出しの岩肌を拳で叩きつける。鈍い音と共に血が滲んだが、躊躇などは微塵も起こらない。
そのまま押し付けるように捻りこむ。それでも痛みは感じず、より大きな痛みがささいな肉体の損傷を軽く凌駕してしまう。
ウルカはもうその細身には抱えきれない程の、切り刻まれるような精神的苦痛を持ち合わせてしまっていた。
「この痛みは……忘れない。我が身が滅ぼうとも、心だけは」
別の生き方。それを模索する猶予も訴えかけるだけのささやかな時間も与えられはしなかった仲間に対して。

『別の生き方があることがわかれば……手前らとて、変われるかもしれない、と』

国を捨て、同胞を捨てた自分が説得するなどとは尊大を通り越している。それでも、彼女達が幸せだったとはどうしても思えない。
かつての自分を思い出し、その非力さに割れた拳を見比べる。空を仰ぎ、冷たい雨を受け入れた。願わくばハイペリアの導きが、と。
離さない力。失わない力。守るための力。心を。ただ、心だけを。それが強さなのだと。教えてくれた背中は今も大きい。
切り立った崖の地形を確認し、厚い灰色の雲から聳え立つ壁との位置関係を計算し、方向を見定める。
左手奥に確認出来る味方のエトランジェの気配の更に向こう。忘れもしない血生臭い腐臭のような匂い。
「……そこか」
元々遊撃に位置する彼女には、或る程度の行動範囲の広さが許されている。そしてもうここには"敵"は居ない。
ウルカは翼を広げ、『冥加』を鞘に収めると、矢のようにその場の地面を強く弾く。双眸が赤く強く前を見据えている。
「ソーマ……貴公だけは許さぬ。決して」
遅れて起きた真空が、慌てて空気を呼び戻そうと渦を成す。
そしてそれは雨粒さえも取り込み、残された金色のマナの間で涙のように零れ落ちていく。