相生

Lemma Ⅷ

当ても無い道を、少女はただ歩いていた。
否、そこは道と呼べるような代物ではない。
その証拠に、所々突き出した鋭い岩の尖端や突き出た枝々がゆらゆらと進路を妨げる。

 ―――― とうとう、止めを刺すことが出来なかった。

混乱が鈍い痛覚を呼び覚まし、寒さが失血による眩暈を引き起こす。
引き摺るように持っている神剣が酷く重い。偶然太い木の鋭い枝先が傷に食い込み、低く唸る。
元稲妻部隊だと思われるライトアーマーの少女から受けた脇腹の傷は予想以上に深く、
エトランジェが放った強烈なオーラはシールドハイロゥを展開する為のマナをごっそりと奪っていった。
片足の踝からは突き出した骨がぬかるんだ泥に塗れ、利き腕の指は4本に減ってしまっている。
しかし肉体的な損傷よりも、精神的な苦痛の方が遥かに大きい。このままでは戦闘が不可能になる、と唇を噛む。
「確かに、私も言われた筈……それも、何度も……何度、も……」
剣に、心を。ぶつぶつと反芻しながら、雨に濡れそぼる。陰鬱な光景の中に過去を照らそうと何度試みても、上手く行かない。
問題は、この神剣。細身を天に翳してみる。相手はブラックスピリットだったとはいえ、何度も間合いを読み間違えた。
それは微妙な誤差だったが違和感を感じるのには充分だったし、その兆候はブルースピリットの腹部を貫いた時にも感じている。
以前はもっと、深い間合いだった筈。容易に敵の反撃を受けるリスクの多い、こんな間合いでは。

 ―――― そもそも、どこで"ずれて"しまったのだろう。

ふと、そんな疑念が湧き起こり、少女は慌てて首を振る。一体何に慌てているのかも知覚出来ずに。
道は、次第に歩きやすく開けていく。その先に見える巨大な石造りの壁、そこから響いた爆発にも俯きながら歩く少女は気がつかない。

 ―――― ぱしゃり

水溜りを跳ねる音に、顔を上げる。壁を背負うように、そこには赤い髪を二つのお下げに分けた少女が立っていた。