相生

Nerium indicum Mill Ⅸ

光陰に抱えられたまま今日子と合流し、向かった壁への侵入ポイントで、ニムントールは信じたくない光景を見た。
「――――お姉ちゃん!」
大木の傍らで蹲っているファーレーンを見つけ、慌てて光陰の腕の中から飛び降り、駆け寄る。
肩からは夥しい血が流れており、顔色が紙のように白い。命に別状は無いようだが、早急な治療が必要だった。
「おいおい、こりゃまた派手にやられたもんだなぁ」
「ッッ!!」
「おっと、睨むなって。大丈夫だ、全員生きてる」
丘の中腹で倒れているセリアの首筋に当てていた手をおどけるように上げた光陰が、そのまま肩を竦める。
同じように丘の側面で気を失っているハリオンとヒミカを看ていた今日子が立ち上がり、周囲を見渡していた。
その間に光陰は奥まった崖の側で屈み込み、ウルカの失われた足首に対してトラスケードによる応急治癒を試みている。
「うん、こっちも大丈夫、気絶しているだけよ。でも驚いたわね、この5人がここまで、その」
「ああ、言いたくないが、マロリガンじゃ結局誰も倒せなかった。しかも、あの時よりも嬢ちゃん達は確実に強くなっている」
「複数?」
「判らんな。気配は感じなかった。けど、複数なのを祈るぜ。漆黒の翼を倒した奴がもし単独だとしたら、敵には絶対に回したくない」
「……」
二人の冷静さに呆れながら、ニムントールは急いで緑のマナを『曙光』から引き出している。
しかし苦手意識のせいか、まだエスペリアやハリオンに比べ、回復魔法はぎこちない。焦っている分、時間もかかる。
もっと『曙光』に意識を集めて、と懸命に自分に言い聞かせていると、
「ねぇ、ニムントール?」
「後は任せたぜ」
「~~っ」
背後から二人同時に声を掛けられ、集中を邪魔される。かっとなったニムントールは振り返り、
「――――ぁ」
そこで初めて、妖精部隊の集団に取り囲まれている事に気づいた。意志の無い目が数え切れない程こちらを見据えている。

ぽかん、と一瞬口を開きかけたまま呆然としていると、光陰の背中がゆさっと動き、それでようやく現実感も戻ってきた。
「神仏は見捨ててなかったようだぜ、良かったな今日子。どうやら団体様のおでましだ」
「そんな事言って、アンタの煩悩が呼び寄せてるんじゃないでしょうね……ニムントール?」
「……え? あ、うん?」
「悪いな、俺らはちっとばかし忙しくなりそうなんだ。頼りになる仲間は全員すっかり熟睡してるときてるしな」
「だから、片っ端から起こしてちょうだい。なるべく早い方が助かるかも」
「約束だ、その間の時間は稼ぐ。だから……頼んだぜ!」
「いい、遅刻したら後でキョウコお姉さんが、きっついお仕置きあげるからねっ!」
二人は周囲を圧するオーラを身に纏い、一斉に逆方向へと飛び出す。ニムントールを中心に、丁度円を描くように。
一度だけ振り向いた光陰が、にっと笑いながらつき立てた親指。ニムントールは真っ赤になりながら、叫ぶ。
「っそっちこそ! 約束破ったら、酷いんだからねっ!!……そうじゃないと、……寝覚めが悪いし」
胸に、熱いものが流れてくる。勢いにまかせ、振るう『曙光』。詠唱が滑らかに空気を満たす。
「神剣の主が命じる。マナよ、癒しの力となれ!」
いつもより少しだけ高揚した問いかけに、戸惑いつつも強い輝きを見せる『曙光』。
主の瞳や髪の色と同じ、濃いEmerald(エメラルド)に秘められた癒しの光が分散し、盾となり仲間達を包み込んでいく。