「……ふぅ」
二人きりになり、特に会話も無くヘリオンから少し離れたニムントールは、
度重なる戦闘により半ばから圧し折れ、焦げ付いた樹木の幹にそっともたれかかっている。
「……コウインなんか、乗っけたから」
膝が、細かく震えている。聞こえないような声で悪態をついてはいるが、この場合は肉体の方がより正直だった。
朝から始まった戦いは既に午後へと突入しつつあり、そのような長時間に及ぶ戦闘はニムントールにとっては初の体験。
ここまでの持久力を想定しての訓練メニューをこなしてもいなければ、最年少の未成熟な身体がそれに耐えうる程の天性を持ち合わせている訳でもない。
油断すると折れそうな膝を懸命に騙し、なんとか姿勢を維持しているだけで精一杯である。
切れそうな呼吸を規則的に保とうと努力をしつつ、暗雲の隙間からようやく差込み始めた日光をもう一度見上げ、目を細める。
「……」
正直、立っているのが辛い。
しかし今目の前には、同年代の仲間がいる。それも、結構元気そうに。そんな場で座り込むなどは、負けん気の強いプライドが許さない。
まだ疼く、回復したての踝を軽く見えない角度で浮かす。僅かな動きでも、直前の戦闘で負った生傷があちこちから痛みのシグナルを送ってくる。
そっと二の腕を擦ると、そこにも生々しい斬り傷があり、白っぽい脂肪が見える程深い。そもそも、無傷の部位を探す方が大変だった。
使いこなせる数少ない癒しの神剣魔法をそっと試してみたが効き目は薄い。思わず顔を顰めてしまう。
『曙光』に残されたマナが残り少ないのは、色あせた緑色にぼんやりと明滅する刀渡りの輝きでも窺い知れる。
「く……こんな、時に」
仲間内でも最も小柄な彼女の肉体には、戦闘に必要な体力やマナの貯蓄量が元々一際少ない。
それは生来のもので、決して彼女のせいではなかったが、それでもニムントールは舌打ちをする。
突き上げてくる疼痛にただ耐えることでしか応える事が出来ず、思うように動いてくれない身体に対して理不尽な想いを抱きながら。
「――――?」
そうして髪を整える振りをしつつ襟元の傷跡を改めて確認するべく、崖に向けていた顔を動かそうとして、不審な表情のまま視線だけが止まる。
「……っ危ない!」
それは今までどんな場合でも、1歩離れた位置から傍観する姿勢を崩した事のなかった彼女が、いつの間にか無意識に持ち合わせていた感情。
飛び出そうとする敵に"より近い位置に立っている"ヘリオンの更に前面へと、ニムントールは跳ねている。