「何だってっ!?」
ヒエムナを陥落させ、悠人たちはいよいよダーツィ大公国の本拠地であるキロノキロ進攻を控えていた。
しかし、急遽ラキオスの情報部から齎された報告は正に青天の霹靂であった。
「サルドバルト王国が同盟国のイースペリアを裏切ったっだって!?」
「はい。イースペリアからの緊急要請に我がラキオスも応じましたが、既にサルドバルト軍はイースペリアの領内深くまで侵攻しているそうです」
エスペリアが報告書を要約し、悠人に現状を伝えていた。
だが、飛び込んでくる情報はどれも芳しいものではなく、えもいわれぬ焦燥感が益々膨らんでいくものばかりである。
表面上は淡々と報告しているエスペリアであったが、報告書を握る手や漂う雰囲気から相当の動揺を押し隠している事が感じ取れた。
「先ずはダーツィを攻略し、そのままランサを経由してイースペリアへ向かいましょう。ユート様」
「あぁ、急がなくちゃな…」
腰に差した『求め』の柄に手を掛けながら、悠人は奥歯を噛み締めた。
「ふぅ…」
キロノキノを陥落させ、続いてランサを奪還した悠人たちは接収したイースペリアのスピリット施設で休息を取っていた。
とは言っても、ほんの数刻前まで戦場となっていた市街では未だにその爪痕が生々しく残っていた。
エスペリアたちが軍部と連絡を取り合って復旧の対応に当たっていたが、味方である筈の悠人たちへの街の人々の対応は冷えたものであった。
(援軍に来ても、結局街を壊したんじゃなぁ…)
何も出来ない悠人は割り当てられた自室で夕日に染まる町並みを只眺める事しか出来なかったのだった。
灰燼と化した戦場跡地での光景を思い出し、悠人は遣る瀬無い気持ちになった。
人間の命令で神剣を奮い、その人智を超えた破壊の力でぶつかり合うスピリットたち。
そして、そんな彼女たちに向けられる畏怖に染まった人間たちの視線。
そんな人間の身勝手さに、悠人は胃が焼けそうな不快感を覚えていた。
「ユート様?居る?」
「入っても良い?」
ノックと同時に聞こえてくる二人の声。断る理由の無い悠人は気持ちを切り替え、ベッドに腰掛けて返事をした。
「あぁ、開いてるから」
「うん、じゃあ入るね」
「ね~」
元気な調子で部屋に入って来るネリーとシアー。そんな二人の何処となく嬉しそうな様子に悠人も釣られて笑みを浮かべてしまった。
「どうしたんだ?二人とも?」
「んとね、何と無~くユート様と一緒に居たいなぁ~って思って。ね?シアー」
「うん、夕飯まで時間があるから。それまでユート様と一緒に居たいけど、ダメ?」
覗き込みながら様子を伺ってくる二人に苦笑を洩らしつつ、悠人は手首を振って迎えた。
「いや、全然駄目じゃないぞ。俺も退屈してたトコだしな」
「ホント?ユート様♪」
「わぁい♪」
言うや否や、ネリーとシアーは悠人の右と左に座って肩が触れる程に身を寄せて笑みを零した。
二人の頭を悠人が撫でると、二人は目を細めて表情を蕩けさせて身を預けてきた。
「えへへ~、ユート様~♪」
「撫で撫で~♪」
幸せそうな二人の様子に、悠人は黙って二人の頭を撫で続けていた。
二人の髪の手触りが心地良いのもあったが、甘えてくる二人の様子に悠人は何だか微笑ましい気持ちにさせられるのである。実に可愛い気のある妹分たちであった。
「ん?」
気が付けば二人は悠人に凭れかかる様にして寝息を立てていた。そんな光景に悠人の眦も下がってしまう。
無理もない。今日は強行に次ぐ強行での進軍であったのだ。いくら神剣の加護があったとしても疲れが無くなるわけではない。
寧ろ、肉体的な疲れを神剣が緩和してしまう分、休み無く続く分精神的な疲労が溜まってしまっていたのだろう。
「このまま寝かせて…。あ…」
二人を起こさない様に立ち上がろうとした悠人であったが、二人は悠人の服をしっかり掴んで寝ていたのだった。
「うぅ、参ったな…」
一人なら何とか対処出来たのかもしれないが、二人となると起こさない様に離れるのは至難の業であった。
どうしようかと悩んでいる内に悠人も疲れに襲われ始め、やがて部屋に三つの寝息が立ち始めたのであった。