スピたん~幻のナナルゥルート~

6章 これもひとつのあいのうた。前編

あの人は、自分とこのような関係になって、喜んでくれているのだろうか。
自分があの人と、否、誰かとこのような関係となる事など想像もしなかった。
いまだにこの状況に戸惑いを感じるが、不快な気持ちは微塵もない。
ただ、うれしい。あの人の事をこのように想えるという事が。そう思える様になった自分が。
(幸せ、とは、今のような気持ちを、言うのでしょうか…?)
自分は、変わったのだろうか。
あの、何も感じず、何も思わなかった、戦争時代の自分と比べて。
ここまで来るのは、本当に危ない綱渡りだったような気がする。
もし、自分があの戦場で散っていたなら。
もし、自分に大切と思う人が一人もいなかったら。
もし、自分が完全に絶望して、『消沈』に全てを委ねてしまっていたら。
もし、あの人と逢う事がなかったなら。
ほんの少しでも歯車が狂えば、自分はどうなっていたかと思うと怖気が走る。

―そういえば昔、そんな記憶もないのに、自分の在り方に、この世界に憤った人がいたような―

もしかしたら、自分は誰であろうと構わなかったのかもしれない。
自分を認めてくれるのであれば。自分の空ろな部分を満たしてくれる人であれば。
だけど、なんとも勝手な言い分かも知れないが、
もう、あの人以外では駄目なのだ。
いつからこんな風に想ったかはよくわからない。
方舟に来て、絶望の中であの人の言葉を聞いた時か。あの人の手の温かさを感じた時か。
いや、はっきりとそう意識した瞬間は無かったのかもしれないけど。
まだ、あの人と出会って半年と少ししか経っていなくて、その間、特に劇的な何かがあった訳でもないけど。
気が付けば、あの人の存在が自分の中でどんどん大きくなっていった。
あの人の声を、笑顔を、手の温かさを思い浮かべるだけで、自分の空虚な部分が満たされる気がする。
自分は、あの人が好きなのだ。誰よりも誰よりも、あの人が。
おそらく今後、どのような人に出会おうとも、あの人以上に想う事は不可能だろうと思う。
この想いが、自分の独りよがりでなく、あの人もそうであったらいいと想うのは、我侭すぎるだろうか?

「ナナルゥさん、お風呂ですか?」
「はい。少々遅くなってしまいましたが。」
「あ、夕食の後片付けしてたんですね。でもさっき、ロティさんが浴室に入って行きましたよ?」
「そうですか…それでは、また後に致します。」
「! 待って下さい!これはチャンスですよナナルゥさん!」
「はい?」
「いいですか、恋人ならこういうときは…」

「ご指導、感謝します。では、早速実戦に入ろうと思います。」
「はい!頑張ってくださいねっ!」

―どうか、あの人に、喜んでもらえますように―

「…つ、疲れたぁ…」
その後。
あまり語りたくない(何度もいうが、嫌ではない)ナナルゥとのやり取りが色々あって。
今、僕は遅めのお風呂に入っている。
「嬉しいんだけど、やっぱり恥ずかしいなぁ…」
身体を洗いながら、今日の夕食の事を思い返して見る。

今日の夕食は、ナナルゥが料理当番であって。僕の隣に座って、
「どうぞ、ロティ様。」と。
それが当然と言うように、自分の作った料理を箸で摘んで、僕の口元にもっていく。
「……ありがとう。いただき、ます。」
ここで変に拒否すると、またナナルゥは泣きそうになるだろう。
ナナルゥの泣き顔は見たくないのであって、
決して意思が弱い訳ではないと自分に言い聞かせてナナルゥの料理を頂く。
「…うん、おいしいよ。ありがとう、ナナルゥ。」
少し耐性がついてきたのか、今日はちゃんと味がわかった。
「…ありがとうございます。」

そういってナナルゥがわずかに口元を綻ばせる。それが嬉しいのだと解釈するのは、考え過ぎではないだろう。
そしてナナルゥは僕が口をつけた箸で、それが当然というように料理を自分の口に入れる。
…やっぱり恥ずかしい。更にみんなの視線が痛い。
生暖か~い視線、好奇の視線、いたたまれないという様な視線、約一名の冷た~い視線は黙殺する。
更にその後調子に乗ったヨーティアさんが恋人同士なら口移しで食ってみろと言い出し、
みんながまたもや料理を吹き出し、ナナルゥはそれを実践しようとしたが、流石に僕も断り。
涙目になったナナルゥを僕、セリアさん、ヒミカさんの三人で全身全霊で説得し、なんとか納得してもらえた。
ナナルゥには悪いが、流石に僕もそこまで神経が図太くできていない。
…まぁ、興味が…ない訳ではないが…。

「まあ、ナナルゥが…感情が表に出せるようになってきてるって事かな…」
誰にいう訳でもなく、虚空に向かって一人呟いてみる。
半年前、ラキオスの軍に入り、ナナルゥと出会ったときの事が脳裏に蘇る。

「…ナナルゥ・ラスフォルトです。」

その姿を見たとき、比喩でなく背筋が凍ったと思った。
スピリットらしいその美貌は一切感情が伺えず、
整った顔立がまるでよくできた人形の様な不気味さを醸し出していた。
その瞳は冷たいと言うよりは、何も写さない曇った硝子玉のようだった。
それまでにヘリオンやネリー達と会い、町中でもたまに出会うスピリット達を見てきただけに、ショックは大きかった。
神剣に取り込まれたスピリットの事は、話としては聞いていたが、
完全にとり込まれたのではないにせよ、そう言うスピリットを実際に見た事はなかった。
エトランジェのハーフと言う事がばれ、
やり場のない怒りを周囲にぶちまけたりしていた自分など全然甘かった。
怒る事さえできない、そもそも怒るという事が分からない。
悲しいや悔しいという感情さえ持つ事ができなかったのだと。
一体、どうなったらあの様になってしまうのだろう。
戦争が終わったいま、ナナルゥはどう思っているのだろう。

「あ、あの、ナナルゥさんは少しずつ、感情を取り戻してきてるんです。
その、無表情に見えるかもしれませんが、凄くいい人ですから!
だから、その、えっと…すぐ、仲良くなれますから!」
ヘリオンはそう言ったが、初めはどう接していいか分からず、ナナルゥとまともに顔を合わせる事もできなかった。
ネリーやシアー達がナナルゥに気さくに話しかけ、ナナルゥが淡々とそれに応じる光景を見つめ、
ナナルゥがみんなに好かれている事を感じ、まともに話せない自分に苛立ちを覚えた。
なかなかナナルゥと打ち解けないまま、出会って一週間経ち、その日の夜―

―傷口から血が滴り落ちる。それが地面に落ちる前に金色の霧になり、消えた。
傷口からも金色の霧が立ち上がり、周囲の視線が驚愕から忌避と恐怖に変わる。
その日から全てが変わった。祖父が、友達が、家の使用人が、町の全てが敵になった。
いや、自分が敵に回した。敵なのだと、決めた。

(化物の証だ)

だまれ。
そう言った奴を殴った。言ったと思う奴を殴った。そう思ってそうな奴を殴った。

(エトランジェのハーフ)
(不貞の娘の子)
(家督の恥)

五月蝿い。うるさい。うるさいウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ。
自分の何が悪い。母さんを馬鹿にするな。父さんを化け物なんて言うな。

―やめてくれ。またあの夢なんだ。頼むからもう覚めてくれ。
これ以上、続きを見せないでくれ。僕にあんな事を考えさせないでくれ。
早く覚めろ。早く。 はやく―

何で自分がこんな目に遭うんだ。何で自分が化物なんて言われなきゃいけないんだ。

―やめろ。その先を言うな―

何で父さんは普通の人じゃなくてエトランジェなんて奴なんだ。
何で母さんは父さんなんかと結婚したんだ。

―違う!僕はこんな事思っていない!!
僕は父さんと母さんが好きだった。
三人で過ごした時間は僅かで、裕福じゃなかったけど、決して不幸なんて思わなかった―

本当にそうか?ならなんで自分は父さんの顔が思い出せないんだ。

―それは、僕が幼かったから―

そうか?自分が忘れたかったからじゃないのか?化物が父親だって認めたくないから…

―違う!!違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!
やめろ!!もう言うな!!頼むから、その先を言うな―

何で自分はこんな風に生まれたんだ。
化物に生まれてきたくなんかなかった。二人の間に生まれたくなかった。

「やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーっ!!!!!!!」

絶叫と共に跳ね起き、自分が物凄い汗を書いている事に気付いた。
「…はあ、はあっ…」
今のは夢であり、時計は午前2時前。ここは自分のあてられた部屋であり、僕はベットの上だ。
「…また、あの夢か…。」
ここ数年、たまに見てしまう夢。
正体がばれ、周りにやつあたりしていたあの時のこと。
そして頭に響くどす黒い感情。やり場のない怒り、悔しさ、憤り、そして―
「…やめろ。それ以上考えるな…!」あれは僕の本心じゃない。
僕は。僕、は…

「…こ、降参…。」
「…わかりました。しばらく休憩にしましょう。」
朝の夢のせいで悶々とした気持ちを抱えつつ、僕は初めてナナルゥと模擬戦をしてみた。
結果は惨敗。永遠神剣を持ち、毎日訓練を欠かさないナナルゥにコテンパンにされてしまった。
「どうぞ。」ナナルゥが瓶に詰まった水をを差し出してきた。
「あ、ありがとう…はあ…」2口で水を飲み干して大の字に寝転び、一息つく。
「…その、やっぱり強いね、ナナルゥは。」
「いえ、私は神剣魔法による戦法を重視しているため、白兵戦はそれほど長けている訳ではありません。」
「そ、そっか…」謙遜なのかフォローなのかわからないが、どちらにせよ更に傷つく。

「…ふ、あぁぁ…」
あの夢のあと結局朝まで眠る事ができず、横になると急激に眠気が襲ってきた。
「ごめん…寝不足で、少し眠ってもいいかな…?」
「了解しました。15分程度の仮眠は効率的です。時間がきたら起こすと言う事で構いませんか?」
「うん、ありがとう。お願い、する、よ…。」
表情が変わらないからわかりにくいけど、親切なんだな…
そう思いながら、意識が闇に沈みゆく―

キライだ。みんなみんな、この世の全部、だいっきらいだ。

祖父も、町の奴らも、この世界も、こんな風に生まれた自分も

こんな風に生んだ母さんも、その理由になった父さんも、ぜんぶ

―嫌だ。こんな事思いたくない。
こんな自分は嫌だ。こんな情けない自分はいやだ。こんな汚い自分はいやだ。
嫌だ、イヤだ、いや

「ロティ様!」

「ロティ様!」
「っ…!あ……!!」
「…大丈夫ですか?いきなりうなされだしたものですから…。」
ナナルゥが珍しく、少し焦った顔をして僕を覗き込んでいた。
「…ごめん、大丈夫。ちょっと…嫌な夢を見ちゃって…。」
「…夢、ですか。…事情を、聞く訳にはいきませんか?」
「……そうだね。なんでもないとは、言えないよね…」
気付いたら、僕の口は勝手に言葉を紡ぎ出していた。
何故あんなに簡単に話してしまったのだろうか。
あの、僕が密かにずっと悩んでたことは、先生にさえ話した事がなかったのに。
いや、違う。
多分僕は、ずっと誰かにあの事を相談したかったのだと思う。
「…僕が、エトランジェのハーフだっていうのは知ってる?」
「…はい。ミュラー様から、聞いております。」
「そっか。…僕の父親は、エトランジェだったんだ。
父親は、僕が物心つく前に死んで、顔も覚えていない。
母親は、貴族の一人娘らしかったけど、父親と駆け落ちして、
父親が死んだ跡、生活は苦しかったけど、必死に僕を育ててくれた。
だけどある日、怪我をしたときにエトランジェの子だってばれちゃってね。」
ああ、それから、全てが変わった。
「僕と母親はそれから爪弾きにされて、結局母親は実家に戻って再婚したんだ。
新しい子供もできて、もう何年も会っていない。
あと、両親の結婚に反対してた祖父が、僕を軍に売り込むために、僕を鍛えてたっけ。」
皮肉だが、そのおかげで今この軍に入る事ができるようになったのだろう。
「それから先生に会うまで、僕は凄く荒んでいたんだ。
目に入るもの全てが敵に見えて、みんなが僕を嫌な目で見てる、
みんなが僕の悪口を言ってる様に思えて、力に任せて何の意味もなくみんなをぶっ飛ばしたり、
物を壊したりして。…気を引きたかったのかな。いっそのこと、罵ってくれても構わなかった。
何も言わずに遠ざかって欲しくなかった。見て見ぬふりをされたくなかった。何か僕に反応してくれたら、
僕はそれでやめれるのにってね。…当然みんなますます僕を遠ざけて、更に僕は荒んでいった。」
今思えば愚かだったと思うが、その時はそれ以外に方法が見つからなかった。

「それで、ある日町にやってきた先生と鉢合わせしてね。難癖つけて喧嘩を吹っかけて
ぼこぼこにのされちゃってね。それから何度も突っかかって、何度も倒されて、
先生が剣聖ミュラーだって分かって、そのまま弟子にしてくれって頼んだんだ。
…変な言い方かもしれないけど、あの時僕は嬉しかったんだ。
どんな形であれ、先生は僕を、見て見ぬふりをせずにちゃんと見てくれたから。」
そして、先生は今のこの名前をくれた。
今での自分をやり直す為の。
ナナルゥは僕が話す間、僕の隣に腰掛けて一言も話さずこちらに顔を固定していた。
できれば相槌の一つくらいは打って欲しいものだが、ちゃんと聞いてくれているというのは分かった。

「…町の事は、もう今はいいんだ。僕も悪い所もあったし、納得できないところもあるけど、
今は憎んだりしてない。…だけどさ」

待て。これ以上言ってしまっていいのか?
これ以上言えば、言葉にしてしまえば、僕は―
「…僕は、両親の事が、嫌いなのかもしれないって。」
ああ。言ってしまった。
言い出したらもう止まれない。面白いくらいに抑えていた言葉が溢れ出す。
「…両親が、僕を大切だと思ってくれてたんだろうなとは思うんだ。
貴族だった母さんが慣れない家事や仕事を頑張ったのも僕のためだった。
再婚した事だって別にいいんだ。顔を合わせる気にはならないけど、
今…母さんが幸せって思っているのならそれでいい。」
今、母さんはどうしているだろうか。幸せ、なのか?
「父さんが、エトランジェが差別される事が悔しくてたまらなかった。
何も父さんは悪い事をしてないのになぜ化物なんて言われないといけないんだって。
…うん。僕も、2人が好きだった。
その、筈だった、けど…」
だけどそれは、そう思いたかっただけだった。
ただ自分の醜い感情を、包み隠していたかっただけだったんだ。

「…夢の中で、昔の僕の声が聞こえるんだ。…何でこんな風に生まれてきたんだって。
父さんがエトランジェじゃなかったらよかったのに、母さんが父さんを選ばなかったら、
普通の人に生まれてきたらよかったのにと。
そんな事ない、自分は二人とも好きなんだって思いたかったけど、
…否定、しきれないんだ。そんな風に思っている自分がやっぱりいるんだ…!」
そうだ。ずっとそんな事を密かに考えてる自分が許せなかった。
結局僕は、あの町の人達と変わらない―
「戦争が終わって、差別らしい差別は無くなったけど、そんなのは関係ない。
結局僕は、本当の所は、二人の事を疎んじて、嫌いで―」

「…そんな事は、ないと思います。」
「…え?」
「…私にはいまだに人の感情がよく理解できません。
それに、スピリットには両親というものがありません。
したがってロティ様の過去について私が何かをいう資格など無いかもしれません。
しかし、ロティ様がお二方を本当に嫌っているのなら最初から悩みなどしないのではないでしょうか?」
「…どうして?本当に好きなら、こんな事悩みもしないんじゃ―」
「いいえ。私見ですが、大切に思うからこそ、その様に悩めるのではないでしょうか?
その人の全ての部分が好きになる事は、不可能だと思います。
…たとえ、そのような事を密かに考えていようと、
それでもお二方が好きという事でいいのではないでしょうか?」
「―あ―」
―そう、なのかな?そういうことにして、いいのかな?
好きだったという事でいいですか―
「……私には明確に誰かを大切と思う、好きと思う感情がよく分かりません。
失いたくない、守りたいというような想いはありますが、その理由を問われると言葉にできません。
しかし、いつか自信を持って大切と思う人を認識できるようになりたい。
…今は、そう思っています。
私には、ロティ様がそういう感情を含んだ上でも、お二方が好きなように見えます。」
それは、自分を納得させたいだけと言えばそれまでかもしれない。
でも、僕はずっと抱えていたしこりがとれた気がした。

「―ロティ様?」
「…大丈夫。これは、嬉し泣き、だから。
そっか。僕はちゃんと、父さんと、母さんの事が好きだったのか―」
自然と、涙が出た。泣いている事も気付かずに馬鹿みたいに涙があふれた。
どす黒い感情が、流れ落ちていくようだった。
「…休憩時間を、もう少し延ばしましょうか?」
「ん…。」
しばらく涙が出るのに任せて、ようやく止まったところでナナルゥにお礼を言う。
「…ありがとう、ナナルゥ。それとごめん。…ナナルゥも、辛い思いをしてきたのに、
自分一人だけ不幸だみたいな言い方しちゃって。」
「いえ、私が聞いた事ですから。…こちらこそ、ありがとうございます。」
「え?」
「…ロティ様の過去を話していただき、そして、私の意見を真剣に受け止めていただきました。
…それが、不謹慎かもしれませんが、嬉しい、と感じます。」
そう言ったナナルゥがほんの少し、微笑んだように見えた。
瞬きする間に元の表情に戻っていて、見間違いと言っても仕方ないのだけど、
それでも、あのときナナルゥは僕に笑顔を向けてくれたのだと思っている。
僕は思わず、ナナルゥの手を握っていた。
ナナルゥの手は意外とひんやりとしていて、だけど今の僕には心地よかった。
―そう言えば、手の冷たい人って、心が温かいっていうんだっけ―
「ナナルゥは、優しいね。」
「優しい、ですか?…自分には、よく分かりませんが…」
「ナナルゥは優しいよ。本当に、ありがとう。」
それから僕は、あの夢を見る事はなくなった。

ヘリオンが言った事が、スピリット隊のみんながナナルゥを好いている理由が、少しわかった気がした。
それと同時に、悲しかった。
こんなに優しい人が、戦争に駆り出され、命を奪わなければならなかったという事に。
こんなになるまで、感情を表に出せなくなるほど省みられる事が無かった事に。
それが、当然だった世界に。

力になりたいと思った。これからの時代で、ナナルゥ自身が幸せになって欲しい。
楽しい事がいっぱいあって、そのときに笑えるようになって欲しい。
そのための手助けが少しでもできたらいい。
そして、もしできる事なら―

(ナナルゥの目一杯の笑顔が、見たいな…)
―ひょっとしたら、僕はあの時から、ナナルゥに惹かれていたのかもしれない―

「ナナルゥは…僕とこうなって、喜んでくれてるのかな…。」
今、ナナルゥは幸せだと思えるだろうか。
僕は、その手助けができたのだろうか。
…ナナルゥは、もし僕がいなかったとしてもいずれ幸せというものを感じれるようになったと思う。
ナナルゥの周りにはナナルゥが大切に思う人がいて、ナナルゥを大切と思う人がいて。
僕でなくてもその人達か、あるいはこれから会う人達がきっとナナルゥを支えていったのだろう。
たまたま、それが僕だったというだけかもしれない。僕でなくてもよかったかもしれない。
だけど、どんな偶然や幸運だろうと自分がナナルゥの大切な人になれたのなら。
ナナルゥが僕がいる事で喜んでくれるのなら。
「ふふ…だとしたら…やっぱり、嬉しいなぁ…」
そうつぶやいた瞬間―

「…ロティ様、失礼します。」
「!!!!!!!????????」